『編集長を出せ!』

編集長を出せ! 『噂の真相』クレーム対応の舞台裏 [ソフトバンク新書]2004年に黒字のまま休刊した雑誌『噂の眞相』編集長の本。Fさんのおすすめで手に取った。副題は「『噂の眞相』クレーム対応の舞台裏」となっていて、その通り出版界・週刊誌界の「作家タブー」なるものを破って作家スキャンダルを取り上げ続けた同雑誌ならではの裏話的エピソードがちりばめられている。同誌の誌面に載せた女性作家陣に呼びつけられて飲み歩いた(歩かされた)話や、有名作家の愛人関係の旅行を追った時の話などのエピソードすべてに興味を引かれたわけではなかったが、その報道に一貫する「知り得た情報はすべて書き尽くすこと」(p.231)という姿勢には頷かされるものがあった。この本を紹介してくれたFさんはマスメディア関係の仕事をされているのでなおいっそう感じるところがあったのだろう。たとえば、派閥Aと派閥Bとが対立している状況でのAからのリーク情報について筆者はこう言う。

この情報にニュースとしての価値があると判断すれば報道する。しかし、「それでは結局Aの勢力に加担して、利することになる」という意見も当然出てくるはずだ。しかし、それでもつかんだ情報やネタは基本的に公表するという姿勢が大切である。

 大手新聞の記者たちは、こうした情報を書きたがらない。警視庁や東京地検が強制捜査をぶち上げない限り、である。普段から公正というタテマエにとらわれているせいもあるだろう。しかし、この「公正でないから書かない」という判断はメディアにとってはむしろマイナス志向というべきである。メディアは国民の知る権利の代行機関にすぎないという自覚さえあれば、知り得た情報は公開するのが基本原則である。

 [略]出所が怪しい情報にかかわりたくないがために、大手マスコミはこれを書かないことを見識と思っているフシがある。だとすれば、それは公正・中立であるべきという幻想にとらわれているのではないか。岡留安則『編集長を出せ!』(ソフトバンク新書) p.228f.

 こうしたタブーなき報道主義(そして自分の立ち位置に自覚的である態度)は報道に携わる人間の言葉としていかにも頼もしい。同時に彼は言論人として批判にさらされることを覚悟しているが、厄介なのはそうした言論上での批判ではなく、スキャンダル報道が呼ぶ副次的効果、つまり「マッチポンプ」や「フィクサー」の暗躍だという。簡単に言えば「『噂の眞相』があなたのスキャンダルを探っているが、私が止めてあげるから」と代償を要求する恐喝まがいの行為だ。それについても筆者の立場は一貫している。

 こんな恐喝の共犯にされかねないリスクをメディア側が回避する手段はたったひとつ。「知り得た情報はすべて書き尽くすこと」なのだ。

 「書く」ということはこのように恐喝行為を防ぎ、また恐喝の共犯として疑われるリスクじたいもなくすし、一般読者のための情報公開もできる。まさに一石三鳥の有意義な言論活動ではないか。こんなことは当然だと一般の読者は思うだろうが、実はそうではないのが日本のメディアの悪しき実態なのだ。

 『噂の眞相』がタブーなき雑誌として評価を受けたのは、とにかく知り得た情報はすべて書くこと、公にすることがポリシーという、しごくまっとうなジャーナリズムを貫いただけなのである。岡留安則『編集長を出せ!』(ソフトバンク新書) p.229

 もちろんこれは休刊後1年以上経ってからの話だから、厳密に言うならば、ほんとうにすべて書いていたのか・書き尽くしていたのか確かめようがないし、そもそも私は『噂の眞相』を一度も読んだことがない。休刊の事情も知らない。名前を意識した頃にはすでに休刊して伝説の雑誌になっていたように思う。そして「書き尽くす」という表現にこだわるなら私自身は(厳密に)書き尽くすことと(それこそ週刊誌が得意とする)センセーショナルな見出しの消滅(あるいは編集という行為自体の消滅)とが裏表の関係にあると思うが、それについて書くことは本書の内容とはあまりにかけ離れる。

 そうした「編集」という雑誌・メディアの生命線についてはブログ「くろいぬの矛盾メモ」に記された「生の声は、編集しないと万人向けのコンテンツにはならないんだよ。/生の声は、結局は対面コミュニケーションか、アングラなメディア止まり」という言葉(これは「生の声」なのだろうか?)もまた参考になるだろう。その一方で、ウェブ・ブログの動きに絡めていうなら本書の以下のくだりも先人の言葉としたい。

[渡辺淳一氏のスキャンダルを報道し続けたことについて; gamma_ut注]渡辺淳一情報がこうした形で継続的にもたらされた最大の理由は、”情報が情報を呼ぶ”というパターンの典型例だろう。スキャンダルを売りにする『週刊新潮』や『週刊文春』といった週刊誌でも作家はタブーである。いくら情報を売り込んでも取り上げることはあり得ない。その点、『噂の眞相』では、作家ものはお家芸ですらあった。「あそこの雑誌なら取り上げてくれる」という業界内の評判を取り付ければ、後は、情報が入ってくるのをひたすら寝て待つだけでいいのだ。岡留安則『編集長を出せ!』(ソフトバンク新書) p.39f.

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