風という字
火曜日, 12 月 25, 2007 at 18:15:07カテゴリー: 言葉, 語学
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風という字 - o xein’, angellein…
Twitterを眺めてたら「風という字のかたちが怖い」という話があって、いわく「逆さにしたコップの中の虫が、ズリズリ歩いてる感じ」(cielbleuさん)なんだそうな。そう言われるとなんで風の字のなかに虫の字が入っているのか、誰にも頼まれていないのに気になる。世界の果てで虫が息を吐き出しているのだろうか。いやそれとも虫が風を作るバタフライ効果か(1)。気になるのでとりあえず手もとの辞書を引いてみる。
辞書は最新のものではないことをまず断っておいて、三省堂の『漢辞海』(第一版)に載っている『説文解字』を訳したものを更にまとめると「風には方角に応じて八種類ある。風が吹くと虫が生まれ、だから虫は八日で変態する。「虫」から成り、「凡」が音」と。八種類というのは北の風、北東の風、東の風……という具合(正確にはそれぞれに名前がついている)。同じく訳が載っている『釈名』の記述をまとめると「「風」はある地域では口を横にして唇を合わせて発音する(2)。「風」は「氾」である。その気が広くみなぎって物を動かすからである。また別の地域では「風」を口をすぼめ、唇を開いて気を推し出して発音する(3)。「風」は「放」である。気が放散するからである」とのこと。『説文解字』が意味+音の形成文字的成立を説明しているのに対して『釈名』は発音の説明なので、とりあえず後者は今は触れないでおく。と、『説文解字』では「風が虫を生み育むのだから、風の字の中には虫がいるのだ」という説明になる。風媒というわけではなかろうが、風の字の中に生命論と宇宙論が現れる。日本語だと「蚊がわく」の「わく」が自然発生を示すが、海の向こうでは虫が生まれる原因は八つの風にあるとな。
うむうむ。そこでもう一つ学研『漢字源』(改訂新版)を引いてみる。こちらは甲骨文字・篆文の字体に注目して、「風」の字と「鳳」の字が甲骨文字の段階ではほとんど同じものであったことを書いている。「中国では鳳をかぜの使い(風師)と考えた」とな。そこから篆文に時代が下ると「虫(動物の代表)+音符凡(4)」であり、「凡」の字は音をあらわすと同時に帆の象形、「帆のようにゆれ動いて、動物に刺激を与えるかぜをあらわす」という説明になる。こちらの説明では虫が「動物の代表」に出世している一方で「風が生み育てる」とまでは踏み込んでいないようだ。
最後に電子辞書に入っている大修館書店『新漢語林』を引いてみる。形成文字で「虫+凡」というのは変わらないが、「篆文の虫は、風雲に乗るたつの意味。この虫を付して、かぜの意味を表す」とある。風によって生み育てられていた「虫」はなんと伝説の生き物、大空を舞う龍になっている。風雲急を告げる展開とはこのことか。しかしながら手もとにあるものはこの中辞典3冊。白川静説も見てみたいが手もとに無い。いわんや諸橋大漢和をや。(笑) 字源は古代中国の世界観とセットなのでそっちからも見ないとだめなのだろうな、と思う。漢和辞典と字源説については「漢和辞典を買った - akehyon-diary」もどうぞ。
追記:思い出したのでプチ補足を書きました。
- 「バタフライ効果」でよく言われる「~~の蝶の羽根の動きが~~の嵐を巻き起こす」って本来の名前の由来ではなく尾ひれがついたものだということを最近知った。元々はグラフが蝶のかたちに似るかららしい。 [戻る]
- p,b型の子音ということだろうか。 [戻る]
- 今の日本語の「ふ」の唇の形を指すか。 [戻る]
- 「凡」の字は正確には「几」の中に「一」だが、すぐあとに「(=凡)」と書かれている。 [戻る]


