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池辺晋一郎氏のプロ精神

2007/08/25 (土) 14:37
カテゴリー: 日々, , 音楽
kwout this!

全ての大学生協でそうなのか知らないのだが、私の大学の生協は組合員には書籍を1割引で販売してくれる。とてもありがたい。しかしこのせいで大学にいく度に書籍部に足繁く通うようになってしまうのであり、結果としては散財になるのかも。(笑) ともかく、先日諸々の手続きに大学へ行った時も足は書籍部へ。すると珍しく「音楽書フェア」を行っている。フェアの棚に白水社の「バッハ叢書」(箱の装丁がシンプルでいい味)、音楽之友社の「作曲家別名曲解説ライブラリー」や「作曲家・人と作品」などの各シリーズ、グラウト/パリスカの『新 西洋音楽史』全3巻などが並んでいる脇に、その本はあった。

ブラームスの音符たち―池辺晋一郎の「新ブラームス考」 池辺晋一郎『ブラームスの音符たち―池辺晋一郎の「新ブラームス考」』である。2005年刊だからもう近著とは言えないが、雑誌『音楽の友』の連載を単行本化したもののようだ。バッハ、モーツァルト、シューベルトもそばにあったが最近「大学祝典序曲」を聴いていたのでブラームスを手にとる。池辺晋一郎氏をご存知の方の多くはクラシックファンだろう。吹奏楽コンクールでもかつて課題曲を書いていたので、その方面で名前を聞いたことがある方もいるだろう。私はもう長いこと見ていないが、今でも「N響アワー」の解説をされているはずだ。

 本のスタンスとしては作曲家の名曲を取り上げるものの、他の本でも読める通り一遍の解説は極力排除し(池辺氏の言葉を借りれば「同業者=ドウギョウシャ/ドウゴウシャ」であるような)作曲家としての立場からより突っ込んだ視点での議論を提供しようというもの。だから楽譜は当然出てくるし「ここは本来こう進行するのが普通なのだけど…」と言った記述も見られる。しかしだからと言って身構える必要はない。理論を分かっているに越したことはないが、池辺氏の極めて親しみやすい筆致がなんだか分かった気にしてくれる。(笑) たとえば「大学祝典序曲」の項では「ブラームスが船嫌いじゃなかったらこの曲は生まれなかった」というトピックを掲げて語り出すものの(1)、いつのまにか話は冒頭のハ短調行進曲での低音の動きの分析や、既に作られた曲を組み合わせる「アリモノ」(「大学祝典序曲」は4つの学生歌を組み合わせたもの)の難しさといった話に広がっていく。その運びが自然でどんどん読ませる。

 しかしそうした書き方のうまさもさることながら、とりわけ印象的だったのは氏の作曲家達への愛着を感じさせた部分だった。こうしたものを書く際、当然楽譜を読み直す。音楽史に屹立する大作曲家達の楽譜を読めば、それぞれやはり努力と創意工夫に満ち満ちている。そこに「ハハァ」「フゥム」と感じる。バッハだともはや神がかっていて「ハハー」とひれ伏す部分が大きいが、ブラームスだと「ナルホド」「ウーム」となる部分がもう少し大きい。そして氏は今まで名だたる作曲家の曲を無数に聴き楽譜をあまた読んできたわけだが、その上でも「嫌いな作曲家なんているかな」と述べるのである。

 私はただのクラシックファン―それも愛好家というよりにわかファンに近い―なので苦手な作曲家がいる。有名なのだからファンも多いはずで深みもあるのだろうが、聴いてみてもなんだかよくわからない。私はそこでほっぽりだす。またいつか分かるようになればいいや、くらいに。しかし池辺氏は違う。そりゃ音楽が専門でもない一介の男と交響曲を7つも書いている作曲家が違うのは当たり前なのだが、やはりクラシックに賭ける真剣さの次元が違うのだろうと思う。好き・嫌いの次元ではなく一心同体に近いのではないだろうか。ここに私は氏のプロ精神を見る。それは池辺氏が今そうである池辺氏でしかありえなかったという意味のそれである。そして同時に、そのくらいに惚れこまなければ生き残れない世界なのだろうとも思う。

 「アマチュア(amateur)」というのはそれを「愛する」人だという話は有名だ。しかし私にとって「アマチュア」というカタカナにはどこかしら甘えが残っている。愛するというのはもっと真剣なことなのではないのか。遠藤周作の言うように愛が持続であるなら、ある時はその側に寄り添い、別の時はそれから離れるなどということは許されないのではないか。もしそうなら、アマチュアの一部がプロであるに過ぎないのではないか。私もいつか「音楽はアマチュアですから」などと言える日が来るのか。

 さて、「大学祝典序曲」略して「ダイシュク」はとても良い曲だと思う。若々しさ、希望を感じさせる旋律がブラームスの色と渾然一体となり、聴いていて楽しいし親しみやすい。音源が眠っている方はここまで読んだのでついでに聴きなおしてみては。ネットでもアマチュアオケである関西シティフィルさんのサイトで解説と音源、演奏風景を見つけたのでどうぞ。しかしこうやって公開してくれるのはありがたい。

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  1. 実際ブラームスはケンブリッジ大学からの音楽博士号授与を断っている。 [戻る]
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