レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ「イギリス民謡組曲」(“English Folk Song Suite,” composed by Ralph Vaughan Williams*1 )を4日に知り合いが定期演奏会で演奏するそうなので、うらやましさ半分で曲の関連情報をまとめておく。好演を期待します。できれば聴きに&手伝いに行きたいが行けそうもない。8回目にして初の不参加。(笑) 私が以前演奏したのは4年以上前。なおスコアが手元にないので解説に不備があるかもしれない。しかし日本語でのまとめがネットにあってもよさそうなものだが見当たらない不思議*2。
まず2000年に出たRVWの全集解説から情報を抜き出すと*3、1923年作曲、24年初演*4。更に翌年王立音楽学校の生徒だったGordon Jacobにオーケストラ編曲を依頼、Jacobは金管バンドへの編曲も行った。各楽章に用いられた民謡は以下の通り*5。
- March: “Seventeen Come Sunday”(Allegro 2/4, A-B-C-B-A) -”Seventeen Come Sunday,” “Pretty Caroline,” and “Dives and Lazarus.”
- Intermezzo: “My Bonny Boy”(Andantino – Poco Allegro (Scherzando) – Andantino 3/4) -”My Bonny Boy” and “Green Bushes.”
- March: “Folk Songs From Somerset”(Allegro 2/4-6/8-2/4, A-B-A) -”Blow Away the Morning Dew,” “High Germany,” “The Tree So High*6,” and “John Barleycorn.”
英語のMIDIサイトなどを調べたところ、民謡とメロディーの対応は以下の通り*7。
- March: “Seventeen Come Sunday”(A-B-C-B-A) -Aの木管で提示されるメロディーは”Seventeen Come Sunday*8“で、Cにあたる低音マーチは”Dives and Lazarus*9“である。となると残るBのトランペットのメロディーが”Pretty Caroline”か。これは船乗りがCarolineという恋人と一旦は引き裂かれたが結婚するために戻ってくるという歌らしいが、楽譜・音源等は見つけられなかった。
- Intermezzo: “My Bonny Boy” -最初と最後で繰り返されるもの悲しい旋律が”My Bonny Boy”で、タイトルが”My Bonny, Bonny Boy”と少し変わっているが、楽譜・歌詞つきMIDIはこちら。恋人を失った女性の嘆きの歌*10。中間部の旋律が”Green Bushes”で、楽譜つきのMIDIはこちらの二つ目のバージョン。歌詞を見る限りでは緑の茂みで女を見つけた男が口説くが、女は恋人と待ち合わせをしていると言う。結局女は男について行き、その後待ち合わせをしていた男がやってくるともう女は去ってただ緑の茂みが残っているという歌。
- March: “Folk Songs From Somerset” -まず上記のA-B-Aをもう少し分解しておくとA[a-b-a]-B[c-d-c-d]-A[a-b-a]となる。以下小文字で指示する。まずaの旋律は”Blow Away the Morning Dew*11“である。”High Germany*12“はまず歌詞つきの楽譜、MIDIはこちらにあるが、RVWの曲とは似ても似つかない。この歌は比較的有名な民謡のようで、民謡データベースの”The Mudcat Cafe“では「この曲は誰が書いたのか」という論争が交わされている。そして”High Germany”でGoogle検索するとトップにくるこちらのサイト*13を聴く限りでは、RVWで言うbの旋律が一番近いように思われる。だいぶテンポは違うが…*14。”The Tree So High”は見つからなかったが”Whistle, daughter, whistle”ならばこちらのPeggy Seegerの歌の試聴からcの旋律だということが分かる。では残る”John Barleycorn”がdかということになるが、今のところ吹奏楽のそれにピッタリ来るMIDIデータが見つからない*15。なぜか”John Barleycorn”という歌は妙にたくさんある。要詳査。
最後に聴きどころ、演奏しどころの勝手なリスト。1,3楽章は仕掛けも適度に分かりやすくほんとうに良い曲。ちなみに私は長いことtubaの演奏者だったのでいささか低音びいき。
- March: “Seventeen Come Sunday” -冒頭3~4小節目の低音群の8分とシンバルのdecresc.. 次のA部分、弱いシンバルと裏の和声群(hr. sax.?)の動き。B部分は可憐なトライアングル、cor.(trp.?)の8分裏打ち。旋律が始まってから8小節目の1拍目で一瞬音楽が止まるところもいい。Bの終わりから10~9小節目にあるs.d.の8分裏打ちとそのcresc.&decresc.. Cは忙しい木管群の3連符とtrp.などの拍打ちのかみ合い。みんながんばれ。特にb.d.に期待。Cの終わりから6~5小節前にあるhr.のつなぎ的動きは最高においしいし美しい。
- Intermezzo: “My Bonny Boy” -ob.soloとcor.のかぶりは聴かせどころ。後ろの和声。次に旋律をとるeuph.は普段のマイナーぶりを挽回するチャンス。2回目はhr.も重なるか。euph.の歌に入る前の高音木管の音型処理は難しい*16。中間部はトライアングル、シンバルとcl.のアルペジオ。最後は低音メロディーの中でのhr.(sax.も?)の和声。バランスが難しい。あと要所要所に出てくるs.d.の引き際。
- March: “Folk Songs From Somerset” -aは低音に8分が連続するところ、trb.に8分が連続するところ(pとfの2回)、トライアングル。合間に入るfl. cl.は可憐にほしい。旋律最後でcor.と中低音の金管(euph.?)が被るところ。bに入る1小節前の低音つなぎ。bはtrp.のつなぎ8分。cは裏で伸ばしているsax. euph.(これはおいしい!)と裏メロのように絡んでくるcor.(trp.?). dは低音メロディーのアウフタクトになる箇所の食いつき、dに入ってから13小節目でtrp.から始まる音型が中低音に流れていくところ。あと1,3のmarch2曲は場面転換の軽さが聴きたいので各場面最後の音処理は大事かも。
…こう書くと私がどんな風に音楽聴いているのかバレバレ*17。別にfl.やcl.を軽んじているわけではないのですが、この曲くらい旋律が分かりやすいと不自然にならないように演奏すれば旋律に関してはかなり聴けると思うので(まあそれが難しいと言えば難しいのですけど)。あとsax.の人はこの曲かなり暇なのかな。普段活躍しまくる曲に慣れてると相当退屈に感じるかもしれない。
*1:以下RVWと略。Ralphの読みは「レイフ」になったのか。昔「ラルフ」と読んでいた記憶が。ついでに言うと手持ちのCD(asin:B0000575IX)では曲名が"Folk Song Suite For Military Band"となっている。演奏はイギリスのThe regimental Band of the Coldstream Guards(近衛コールドストリーム連隊軍楽隊、1785-).
*2:英語版のWikipediaには該当項目がある。こちら。またアメリカのThe National Band Association(アメリカ吹奏楽協会)のイリノイ州支部のサイトにRVWの生涯・作品などとともにこの曲の解説がある。こちら(pdfファイル)のpp.3-5. F.フェネルのコメントなども載っている。
*3:cf. http://malicioususer.thalysman.com/trax/Export%20Malicious/details/73683.html
*4:しかし「こうべの丘ウインドアンサンブル」さんのプログラムによると同1923年の7月4日に初演されたとある。"English Folk Song Suite was premiered at Kneller Hall, Twickenham on July 4, 1923 by the Royal Military School's Band as conducted by Lieutenant H. E. Adkins"という記述もこちらで発見した。ただし「Lt. Hector. E. Adkinsによって1924年の7月4日に初演された」というこちらの文書(pdfファイル)もある。 …23年と24年、どっち? RVWが曲を書いた時期が分かれば解決しそうだが。
*5:なお"Sea Songs"と題された行進曲も第四楽章のために作曲されたようだが、なぜか外され独立した曲とされている。"Sea Songs"は"Princess Royal," "Admiral Benbow," "Portsmouth"から成っている。さらにベートーヴェン・プロジェクトさんによると「5曲」あるとの情報もある。他にまだ1曲あるのだろうか。
*6:これを"Whistle, daughter, whistle"としている資料もある。 cf. http://www.watfordphilharmonic.co.uk/reviews/review70_4.html "Whistle, daughter, whistle"の歌詞はこちら。結婚をめぐる娘と母との確執…か?
*7:これスコアに書いてある?
*8:どの解説を見てもそう書いてあるのだが、例えば有名らしい"I'm Seventeen Come Sunday"を聴いても似てるのか似ていないのかよくわからない…。
*9:こちらの"alternate"が近い。"divers"はおそらく"dives"のミスタイプで、"Dives and Lazarus"とはルカ16:19-31に出てくる「富める人とラザロ」のこと。
*10:なおbonnyはスコットランド~北イングランドで使われる言葉。
*11:MIDIと歌詞はこちら。サイトによってはこの歌は"bawdy(みだらな、わいせつな)"と書いてあって「朝露を吹き払え」でなにをどうしたらbawdyになるのだろうかフシギ。しかし歌詞をさっと見ると羊飼いの息子が水浴している女性に近づき、話しかける…という歌のようだ。
*12:「高地ドイツ(人?)」というこの民謡はG.Holstの"A Somerset Rhapsody(サマセット狂詩曲)"(1906)にも用いられているとのこと。Willie(=William)という男が高地ドイツ(南ドイツ)にイングランドから戦争に出て行く。その時女に馬を買って「共に行き結婚しよう」と言うが、彼の子を身ごもっている女は(おそらく)ついて行くことが叶わず、Willieとの別れを恨む…という歌。男-女はBilly-PollyだったりHarry-Pollyだったりするようだ。
*13:なおここでは「七年戦争(1756-63)」がこの歌に関係しているのではないかという説が挙げられている。
*14:そしてこれがホルストの「サマセット狂詩曲」で用いられたものかどうかは分からない。
*15:"John Barleycorn"はとりあえず民謡で三種類見つかった(1 2 3)。さらにホルストがピアノと独唱用に編曲したものも見つかった。こちら。このJohn Barleycornなる人物は誰かというと、"Barleycorn"は「大麦の粒、大麦」で口語では「麦芽発酵酒」を意味する。で、"John Barleycorn"はビールやウィスキーなどのモルト入りの酒の擬人化だとのこと(以上『リーダーズ英和辞典』第2版)。調べると絵などもあってけっこう有名人のようだ。
*16:日本の民謡にも似たようなものが…伊藤康英の「抒情的祭」に似たフレーズあったような。
*17:そしてきちんとした音楽教育を受けてないこともバレバレ。スコアがないとパート・音高を特定できないことも。(以下略)








































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