ふとしたことからポディマ・ハッタヤさんの名前を思い出している*1。スリランカのボガラ鉱山で黒鉛を掘り、朝ごはんは二種類の豆カレーの人。夜9時には寝るらしい人。ちょっとネットで調べたが生死ははっきりしないらしい。何より彼が登場する教材「一本の鉛筆の向こうに」が谷川俊太郎氏の作品だったことを再認識して驚いた。
思うにこの小学生向けの教材はなかなかうまく出来ているように思われる。身近なものに世界的な広がりがあること、多くのひとの労働から今の自分の生活が成り立っていることをうまく気づかせる仕組みになっている。そこで私は次の詩を思い出す。
子供たちよ。
これは讓り葉の木です。
この讓り葉は
新しい葉が出來ると
入り代つてふるい葉が落ちてしまふのですこんなに厚い葉
こんなに大きい葉でも
新しい葉が出來ると無造作に落ちる
新しい葉にいのちを讓つて――。子供たちよ。
お前たちは何を欲しがらないでも
凡てのものがお前たちに讓られるのです。
太陽の廻る*2かぎり
讓られるものは絶えません。輝ける大都會も
そつくりお前たちが讓り受けるのです。
讀みきれないほどの書物も
みんなお前たちの手に受取るのです。
幸福*3なる子供たちよ
お前たちの手はまだ小さいけれど――。世のお父さん、お母さんたちは
何一つ持つてゆかない。
みんなお前たちに讓つてゆくために
いのちあるもの、よいもの、美しいものを
一生懸命に造つてゐます。今、お前たちは氣が附かないけれど
ひとりでにいのちは延びる。
鳥のやうにうたひ、花のやうに笑つてゐる間に
氣が附いてきます。そしたら子供たちよ
もう一度讓り葉の木の下に立つて
讓り葉を見る時が來るでせう。
しかし私にとってこの詩は新仮名遣いかつ漢字を易しくし句読点も付したものなので、その通り下にも書いておく。
こどもたちよ、
これはゆずりはの木です。
このゆずりはは
新しい葉ができると
入れ代わって古い葉が落ちてしまうのです。
こんなに厚い葉
こんなに大きい葉でも
新しい葉ができると無造作に落ちる、
新しい葉にいのちを譲って―――。こどもたちよ、
おまえたちは何をほしがらないでも
すべてのものがおまえたちに譲られるのです。
太陽のまわるかぎり
譲られるものは絶えません。輝ける大都会も
そっくりおまえたちが譲り受けるものです、
読みきれないほどの書物も。みんなおまえたちの手に受け取るのです、
幸福なるこどもたちよ、
おまえたちの手はまだ小さいけれど―――。世のおとうさんおかあさんたちは
何一つ持っていかない。
みんなおまえたちに譲っていくために、
いのちあるものよいもの美しいものを
一生懸命に造っています。今おまえたちは気がつかないけれど
ひとりでにいのちは伸びる。
鳥のように歌い花のように笑っている間に
気がついてきます。そしたらこどもたちよ、
もう一度ゆずりはの木の下に立って
ゆずりはを見る時がくるでしょう。「ゆづり葉」河井酔茗
これはどう考えても子供向けの詩ではない。むしろ大人向けの詩のように感じられる。譲っていった者達からの言葉に聞こえる。あるいは、お父さんお母さんへのある種の讃歌なのかもしれぬ。
*1:最初「ポディ・マハッタヤ」さんだと勘違いしていた。申し訳ない。
*2:読みは「めぐ」る。下記の新仮名遣いでは「まわ」になっている。
*3:この字は旧字であり、「祀」と同じ偏を持つのだが、うまく表示されないので常用字体で表記。
*4:旧字体に従って「河井酔茗」を「河井醉茗」に訂正。以下同様。[2007 4/1]
*5:詩文の正確さは保証の限りではない。私は下のヴァージョンの印刷物しか所持していないのだ。特に仮名遣い、また5句目「入り代つて」は下のヴァージョンでは「入れ代って」となっている。16句目「そつくりお前たちが譲り受けるのです」も下では「そっくりおまえたちが譲り受けるものです、」となっている(この点に関しては前者のほうが自然に思われるが)。河井醉茗(1874~1965)は近代口語詩の先駆けとして活躍した詩人とのこと。この詩は彼の詩作の道でも比較的後期に属するものらしい。[8/30]
*6:と思ったが、岩波文庫があるではないか。彼自選の『酔茗詩抄』ISBN:4003103319 を基にテキストを書き直した。一応正確なはず。[9/24]
*7:再追記。見比べれば分かるが、「読みきれないほどの書物も/みんなおまえたちの手に受け取るのです」の部分が、旧仮名遣いでは間に句点も読点も無く、後の句のほうに句点がつく。新仮名遣いでは間に句点があり、後ろの句には読点がついてさらに後の句につながっている。なぜこうした解釈の差が生まれたか分からないが、私には旧仮名遣いの句読法のほうが自然に思われる。[10/9]








































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